作者の思考

新作紹介(青舟)

2013年05月02日

布留玉「八雲」「神魂」「佐太」をご紹介致します。

「八雲」「神魂」「佐太」三作の玉の原石は、全て同じ石から生まれました。玉造りの仕事は、加工に適した原石を探し出すことから始まります。青舟は京都府北部の丹後から、はるばる、翡翠の産地新潟県糸魚川まで足繁く通い、玉造り適した石を探しています。現地の石屋さんを巡る事もあれば、時には海岸におり自ら翡翠の原石を採集することもあります。いきつけの店もあり、現地の店主さんに頼めば、e-mailで画像を送ってもらったり、電話一つで原石自体を送ってもらうことも出来ますが、自ら足を運び、己の目で見て品定めをしなければ納得出来ません。それは、青舟の生来の性分なのです。

この三作品の原石は現地のとある石屋さんで巡り会う事になりました。通い慣れたお店でありまして、勾玉の話、翡翠の話やら、あれやこれや盛り上がっていると、店主さんがおもむろに立ち上がり、店の奥から一抱え程もある石を持って来られました。


「これは参考までに…」と前置きがあり、見せてもらったのですが、手に取ってじっくりと観察すると、ズッシリとした重みがあり、石目、クラックはありますが、まず目を引いたのは、その深いアオの色合いです。深緑色の発色は申し分なく、表面から垣間見えるトロリとした飴のような質感…。まさに、長年追い求めていた原石そのものです。採集場所は、はっきり教えてはもらえませんでしたが、石の表情から姫川上流の石であろうと推察しました。であるならば、一昔前に採集された石「昔の石」と呼ばれるもので、現在では採集出来ない貴重な石と言う事になります。


店主さんは、前置きの通り、販売する気はないらしく、その日は、すごすごと退散する事になりましたが、あのような石を見せられて、じっとしてはいられません。まさに、矢も楯もいられぬといった状態で、再度、お店を訪ねる事となりました。参考品と言っても流石に、店頭に並べるような石ではないようで、「あの石は…」と店主さんにお尋ねすると「ああ…あの石ね…。」とあまり気は進まないようでしたが、前回と同様、手にとって見せて頂く事が出来ました。再度、石の状態を確認しましたが、以前の見立てに間違いはなく、どうしても譲ってほしいと店主さんに交渉を開始しました。しかし、答えはノー。げっそりと落ち込みながら帰路につきました。ですが、このまま諦めるわけには参りません。日を改め再度、訪問。粘り強く交渉を続けました。「そこまで、おっしゃるなら…」と最後には店主さんが折れ、渋々ながらも譲って頂く事が出来ました。

このようにして仕入れた貴重な原石ですが、その大きさ故、勾玉に加工する為には、そのまま加工を開始するわけには行きませんでした。まずは原石の中でも工作に使用する部分と使用しない部分を分け、加工出来る大きさに切断します。大きな翡翠になると表面の色は分かっても石の内部の色の入り具合は、ある程度の予測は出来ますが、実際カットしてみないと分かりません。カットしてみると発色の良い加工に適した部分は4分の1から5分の1程度でした。

この原石から、青舟は“古代出雲の王の御霊を乗せる舟”をイメージし、生み出さされた三作品を布留玉の社では“出雲三作”と位置付けました。三作は古来の玉では最も完成されて形体とされる“丁字頭勾玉”です。


出雲三作 其の壱 布留玉 八雲




命名の由来は、古代出雲の枕詞でもある“八雲立つ“から頂いております。三作の筆頭にふさわしい、縦の大きさは5cmを越える大玉に仕上がりました。この大きさは伝世の玉でも稀に見る大きさであります。しかも、縦・横の大きさだけでなく厚みも1.6cmとしっかりと、とってありますので、丁子の彫りの品位も相まって手にした時の圧倒的な存在感・迫力は、青舟が今まで造ってきた玉とは一線を画するものがあります。

元来、糸魚川の石には石目やクラックが多いので、それらを避けて形成すると、どうしても小さな玉となってしまいます。八雲の場合には、あえてそれらを避ける事はせず、玉の個性として、玉の魅力が、いかんなく発揮されるように取り込む事に心血を注ぎました。石目やクラックが入る事を嫌われる方がおられるのかも知れませんが、青舟としては翡翠及び勾玉を他の宝飾品と同列に捉えている訳ではありません。勾玉作品であり“いにしえの美”として完結させる事が何より重要な事なのであります。

石質はとろりと深みのある肌合いで、頭は爽やかな印象を受けます。色は全体に入っていますが、特に“逆くの字側”の色合いは豊かです。中でも背部外側から尾部にかけては濃緑色の発色が良く、際立っています。厚みをしっかりとるとなると、色調は深くなりますが透明感は沈みがちとなる事が多いです。しかし、この作品に関しては、透明感が高く、これだけの厚みがあっても光を通して透過光で見ても大変、魅力的な作品となっていまます。


この玉の画像をよく見て頂くと、玉の背中の真ん中から尾部にかけて亀裂が入っているのが確認して頂けると思います。ここは元々石目が入っており、加工中に真っ二つに破断しました。普通であれば割れたしまった以上、加工を中断するか、小さいサイズの玉に作り直すところですが、青舟には完成した玉の姿が見えていたのでしょう。幾日も破断した玉の断面を眺めている青舟の背中が印象的でした。そして突如、思い立ったように、破断した部分を樹脂接合し、再度加工を開始しました。苦難を乗り越え、ようやく完成したこの玉は、“威風”を放つ、青舟渾身の作となりました。
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